「私の天国」
ー扶助者聖母会へー

ラウラとアマンディナはキルキウエで元気に育っていった。
しかし、2人はすでに学齢期に達していたのに、近くにはふたりが通える学校は無かった。
メルセデスは以前から、フニン・ロス・アンデスに「扶助者聖母会」の寄宿学校ができたことを知っていた。

そこに2人を入れたい。きちんとした教育を受けさせ、
ビクーニャ家の娘として、ホセの娘として、立派に育てたい。

それを知っていたモーラは、メルセデスの関心を買うために、
2人を寄宿学校に入れ、授業料も払うことにした。

だが2人がフニンに発ったのは学校が始まるずっと前の1月。なぜこんな早くに、なぜこんな急に。
メルセデスは、自分の「内縁」の暮らしを見せたくなかったのではないのか。
モーラは、2人の娘をメルセデスから引き離そうとしたのではないのか。
何か嫌なことがある。けれど子供のラウラには、分かろうはずもなかった。

学院での生活はラウラに喜びをもたらした。祈り、学び、そして友人たちとの出会い。
中でも3つ年上のメルセディタスとの友情はラウラにとって大きな恵みでとなった。
そして宣教師たちの勇敢さは、ラウラに主のみ心と共に生き、使命を果たす喜びを教えた。
「神様、私は神様が大好きです。でもどうやってそれを示したらいいのですか?」
ラウラは主に祈り続けた。まだラウラの使命はラウラには教えられていなかった。

学期が終わるたびにラウラはキルキウエに帰る。
その度に、ことは悪くなっていった。モーラの前では祈ることを禁じられ、
母はモーラに染まっていく。すでにもう秘蹟にも与ろうとはしない…。
ラウラは、自分に神を教えてくれた母の変わりようにショックを受けて、母のために祈り始めた。

彼女の悲しみの理由を知らないまま、学院ではホームシックと勘違いされたものの、
ラウラの魂の成熟は他に見られないほど早かった。
クリスタネッロ神父も他のシスターも、このラウラの「悲しみ」を慰めるには、
主との一致以外に無いだろうと考え、ラウラの初聖体を1年早めた。なんという喜びようか。
ラウラは熱心に初聖体のための準備をした。赦しの秘蹟に与り、何度も心を準備した。
そしてもちろん、メルセデスも…出席した。だが彼女は、気分が悪くなり、ついに秘蹟には近づけなかった。

ラウラはこの日ノートにこう書いている。

 神様、今日改めて私のすべてをあなたにお捧げいたします。私の全生涯をかけて、
あなただけをお愛しし、あなただけにご奉仕したいのです。
 罪を犯してあなたを悲しませるより、私は死を選びます。
ですから私をあなたから遠ざけるすべてのことを、退けると決心します。
 人々があなたを知り、あなたをお愛しするために、また人々が、中でも私の家族の誰かが、毎日あなたに味合わせてしまう悲しみを償うために、わたしにできるだけのことをするとお約束いたします。神様、どうぞ私に愛と苦行と自己犠牲の生活をお与えください。

                           (やなぎやけいこ著「アンデスの天使」より抜粋)

しかし、ラウラの願いとは逆に物事はどんどんひどい方向へとすすんでいく。
ラウラが学院から帰るたびに、モーラはラウラに対しても触手を伸ばし始めた。
「妻になれ」というモーラの言葉をラウラははねつけた。
「私は神様に一生おつかえして生きるのです」そのラウラにモーラは力でねじ伏せようと襲い掛かる。
またあるときは、収穫祭でモーラはラウラに、自分と踊ることを強要する。
ラウラは必死にそれをはねつけ、メルセデスに「ママ、ここから離れてフニンへ行きましょう」
と促すが、メルセデスにはもう2重3重にも枷がついてしまっていた。
そして…モーラは最後の手段に出た。
「もう授業料は出してやらないから、ラウラもアマンディナも、キルキウエで暮らすんだ」
…残酷な申し渡しに、メルセデスはなすすべも無かった。
キルキウエにラウラを連れて帰ってきては、いずれモーラの手にかかってしまうことは、誰の目にも明らかだった。
だからといって、ラウラを守ってやれる自分はモーラに守られてきた。今更抵抗するすべは無い。
誰も彼女たちを守ってはくれないだろう…この辺りではそうしたことが当たり前なのだから…。
メルセデスは弱り果てた。娘を守るためにしたことが逆に娘を追い詰めていく…。

そんなとき、扶助者聖母会の学院でその話を聞いたシスター・アンジェラ・ピアイ、この時の学院の校長が、
ラウラを給費生として預かることを申し出てくれたのだ。
休暇の度に帰る必要も無い。授業料を払う代わりに、こどもたちの面倒を見なければならないが、
小さな少女たちに神様のことを教えることができる。
それは図らずも、初聖体で彼女が約束した「多くの人に神を知らせるため」の仕事を彼女に与えた。
彼女が「天国」と呼ぶフニン・デ・ロス・アンデスにて、彼女はシスターたちの庇護の下、
扶助者聖母に守られ、次第に修道女への召しだし、使命を感じ、
シスターとして働くことを望み始めるのだった。

        


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