黒いマンテリーナ

〜たとえ修道服が着られなくても〜

給費生として学院で働くラウラの役割は、小さな子供たちの面倒を見ることだった。
そうした子供たちの初聖体の準備を手伝い、聖堂へ導き、祈りを指導するとき、
ラウラの心は安らかで喜びに満ちていた。そして…その役割に、初聖体のときの自分の願いを重ねていた。
「世界中の人々があなたを知り、あなたを愛するためのお手伝いをさせてください…」
そのラウラの願いは自然と召命へと、修道女になることへと形づくられて行った。
自分を導いてくれるシスター・アンジェラ、シスター・ローザのように、私も…。
シスター方が、私に神様を愛することを教え、祈ることを教えてくださったように
宣教師の神父様方が、苦難を乗り越えて、世界中へ神様の教えを命を捨てて広めに行くように。
ラウラの願いは修道者として、心から自分を神に捧げること…。それには…と考えてのことだった

ある日のこと、ラウラはその思いで心がいっぱいになって、院長のシスター・アンジェラを訪ねた。
「院長様。お願いです。私を志願者として、扶助者聖母会に入れていただけないでしょうか」
ラウラの目は真剣でその望みが昨日今日の思いつきでないことを語っていた。
…喉まででかかった「もちろん」という言葉を押さえ、シスター・アンジェラはしばし沈黙した。

キルキウエにいるメルセデスのことは、もうシスターの耳に届いていた。
ラウラを給費生として受け入れたのもキルキウエ(はげたかの巣という意味)に
飛び立つ前のひなを置いておくわけには行かない、という気持ちからだった。
ラウラ自身は素晴らしく、信仰も厚く、シスターたちの信頼も大きい。
しかし…メルセデスのことが、ただひとつの障害として、シスター・アンジェラにのしかかった。
どんなに受け入れたくても院長としてのシスターにその言葉を言うことは許されなかった…

「ラウラ、あなたのような少女を受け入れることができたならどんなに嬉しいでしょう。
けれど…ね、あなたの家族についてのよくないうわさが、あるのよ。それで、できないのよ…
ごめんなさい…ラウラ。こんなことを言うのはとても辛いのだけれど…」
ラウラにはすぐに誰のことだか分かった。「ママのことですね…」というラウラにシスターは
苦しげに、メルセデスが回心して、生活を改めなければ、ラウラを受け入れられないのだと
言葉を選びながらゆっくりと告げた。

ラウラには、信じられなかった。私のせいじゃないのに。私は悪くないのに…
なのにイエス様は私をいらないっておっしゃるの?こんなに大好きなのに…
ラウラはしばし聖堂で泣き崩れた。私をいらないっておっしゃるのですか?と
何度も十字架を見上げ、問いかけた。神様、私こんなに好きなのに…
ママのせい?私が悪い子だからならわかります。でも「ママが」原因で、イエス様は
「あなたは要りません」とおっしゃるの?
その時…ラウラの魂に、声が響いた

「ラウラ…私は、私がしたことのために苦しんだのだったか?」

ラウラは顔を上げた。そうだ。そうじゃない。そんなんじゃなかった。
「いえ、いいぇイエス様。あなたは他の人が犯した過ちを償うために、
ご自分の身体で、あがなうために苦しまれたのです。あなたのせいじゃない」
あ…っ
ラウラの心に一筋の光がさした
「イエス様…もしかしたら、イエス様は私がママのために苦しむことを…お望みなのですか?」
十字架からは 応えは無かったが、ラウラの心にはその言葉がしっかり刻まれていた。

その年のレント(復活節)に、ラウラとアマンディナは、堅信を受けることになっていた。
カリエロ司教がフニンにやってきたのだ。メルセデスは、アマンディナのためにフニンを訪れたが
自分からは秘蹟に一切近づこうとしなかった。
その日。ラウラの親友であるメルセディタスが、ラウラのところを訪れた。
「聞いて、ラウラ!私、あさってマンテリーナを司教様からいただけるの!お許しが出たのよ!」
マンテリーナ。それは扶助者聖母会の入会志願者の証の黒い肩掛けである。
ラウラの目には、涙が溢れた。メルセディタスの喜びに、自分の悲しみを重ねた。
すぐにそれを振り払ったものの、「私もマンテリーナをいただきたい…志願者になりたい!」
その思いはメルセディタスの知らせにますます大きなものとなっていった。

堅信式が終わり、カリエロ司教と話す機会を得たラウラは、わらにもすがる思いでそこにひざまずいた。
「司教様。どうぞ私がこの修道会に入れますように、お助けくださいませ…」
カリエロ司教は、すでに、ラウラの家庭の状況をシスター・アンジェラから聞いていた。
思いつめるようなラウラを見つめ、カリエロ司教はそっと「神様がお望みなら、入れますよ」
そう答えることしかできなかった。慰めは、何の役にも立たないと知っていたからだ。

その日。メルセディタスが、ラウラのところへやってきた。手にはいただいたばかりの黒いマンテリーナ。
「ラウラ…この前は、あなたの気持ちも考えないでごめんなさい…
ねぇ、これ。着てみて。あなたのものだと思って…」
メルセディタスはそう言って、ラウラの肩にそのマンテリーナをかけた。
「ありがとう…メルセディタス。嬉しいわ」そう言いながらラウラはメルセディタスに微笑み返した。
と…その時。ラウラの心にまったく不意にあることが思い浮かんだ。

「人を修道者にするのは修道服ではない」

…私は何て形にこだわっていたのかしら。
たとえシスターになれないからと言って、私が神様に自分をお捧げできないと思うなんて!

ラウラは悟った。マンテリーナを着ているからシスターになれるという、ことではないのだ。
自分がすすんで自分から主に自分を捧げつくすこと。それはマンテリーナをいただけなくてもできると。

ラウラはメルセディタスの手を引っ張って、わけも言わずに聖堂へ走った。
わけも分からぬまま、ラウラの顔に浮かんだ喜びに、メルセディタスもともに喜び、
共に神にラウラの喜びを感謝した。

「神様、真理を分からせてくださって、ありがとうございます!
私は私のやり方であなたに私をおささげします!!」

そして…ラウラはクリスタネッロ神父に言った。
公の誓願でなくてもいい。神様に誓願を立てたい。自分だけの誓願を…と。
クリスタネッロ神父は迷った。これが神のご意思であるのかどうか、判断しかねたからだ。
そして、そのラウラの気持ちをくじこうとした。
「どうだい。神様のご意思だと、どうして分かるんだい?」と。
その場では許しを与えなかったものの、クリスタネッロ神父はその後もラウラを見つめ続けた。
そしてついに、ラウラの魂の成長と信仰を認めラウラに許可を与えたのだ。

ある日。ラウラはクリスタネッロ神父とたった2人で神に誓願を立てた。

「私はあなたに私のすべてをおささげし、その証として従順、清貧、貞潔を誓います」 と。

        


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