今私が頼れるのは、ただあなただけ!

〜たとえすべてを失っても…〜


ラウラが秘密の祈りを始めてから、数ヶ月で、主のみ旨は明らかになった。
いや、少なくともそのように見えた。
年末に向け、ラウラの身体が衰弱し始め、せきがでるようになり、止まらなくなった。
ベッドから起きられない日々が続いた。
医者のいないフニンでは、宣教師が独学で医学を学んでいたので、シスターたちは
クリスタネッロ神父にラウラの診療を依頼した。
しかし…もし、主がラウラを「いけにえ」として受け入れたのであるならば、治る見込みはない。
だが、もしそうでなければ…。
クリスタネッロ神父は、最善を尽くしてラウラの命をこの地上につなぎとめようとした。
が…何をしても、ラウラはどんどん悪くなるばかりだった。
6月に発病してからどんどん病魔はラウラを蝕み続けた。
8月にはほとんどベッドから起きられなくなる。
たまりかねたクリスタネッロ神父は、ついにシスター・アンジェラにラウラの病気の理由を話した。
「おぉ神様、そんな……」
他のシスターたちのように、ラウラを愛し、会に受け入れられないことを悲しんでいた彼女は、
悲痛な叫びをもらした。「それでは、ラウラは…」

9月にはいり、毎年恒例の黙想会に、ラウラは力を振り絞って出席した。
これが自分の最後の黙想会であることを知りながら、そして死が近づいてなお、
自分の使命を見つめ、魂を清め、高め、まったきいけにえとなろうとするラウラの姿勢に誰もが驚嘆した。
その黙想会が終わってから、クリスタネッロ神父とシスター・アンジェラは、ひとつの決断をした。
「ラウラを、メルセデスの元へ帰らせよう」というものだった。
これが、主のみ旨によるものだとしても、母親のそばにいればやはり行き届いた世話がしてもらえる。
フニンに呼ばれたメルセデスは、娘の衰弱を目にして驚き、ラウラをすぐに連れて帰ることを決めた。
そして、馬車に乗せ、ふたりはフニンを後にする…見送る親友のメルセディタスに、
「何もしてあげられなかったわ、ごめんなさい。私が神様のみ旨に従えるように祈ってね」と言う言葉を残して。

つかの間、ラウラはメルセデスの看病のおかげで回復に向かったように見えた。
が11月にはいると、再びラウラの体調は下降線をたどり続ける。
ベッドにしばりつけられる娘を見てメルセデスはフニンへ移り住もう、と思い立つ。
「医学の知識を持った人もいる。ラウラもきっと喜んでくれる。メルセデスは学院に入れよう」
そう決意したメルセデスはラウラを連れ、フニン・デ・ロス・アンデスに移り住んだ。
モーラは、メルセデスを繋ぎ止めるため嫌々ながら家を借りることを承諾した。
神の起こす必然の力で、メルセデスはキルキウエを離れることができたのだ…。
しかし、フニンに移り住んでもラウラの病はとどまることを知らず、その幼い身体をさいなんだ。
発熱、悪寒、吐き気…その苦しみをラウラは受け入れ、耐え続け…そして微笑み続けた。
神様は私を受け入れてくださったのだ。ママのためなら、この苦しみも耐えられる…。
見舞いに訪れる人々は、そんなことは露知らず、ラウラの強い精神力に驚かされるのだ。
そして人々はそんなラウラを「アンデスの天使」と呼ぶようになっていった。
そんなある日。馬のいななきが聞こえ、酒で顔を真っ赤にしたモーラが、突然ふたりを訪れた。
「泊まってやる!俺はここに泊まるのだ、ここは俺の家なのだから!」狭い家にはモーラの泊まる場所はなく、
無理を承知で言ってくるそのモーラを見て、ラウラは力を振り絞り、学院へと歩き始める。
「このひとがここにいるなら私はここから出て行きます!」と…。
そのラウラをひっ捕まえ、なぐり飛ばし、止めるメルセデスをも力任せに押さえつけ、暴力を振るい…
周りは慌てて駆けつけ、モーラはつかまる前にと逃げ出し、ようやく騒ぎが収まったその夜…
ラウラは、ひどく血を吐いた。顔をゆがめ、身体を波打たせ、血のかたまりにむせ…、
「苦しい」よりも「ママ、ごめんなさい…大丈夫よ」というラウラに、メルセデスはなすすべもなかった。
その時彼女は、娘のこの苦しみの直接の原因となったモーラに、憎しみを抱いた。
が…ラウラの試練は、これだけでは終わらなかった。

ラウラの身体はもはや、お聖堂にひとりで行くこともできなくなった。
それでも…というラウラを、1月18日、クリスタネッロ神父は最後に、という思いを込めて
ドン・ボスコ学院の男子生徒に手伝わせ、ゆるしの秘蹟を受けたラウラを聖堂へ運んでいった。
それが、ラウラの聖堂の見納めになった。
もはやラウラが死から逃れられないことは、誰の目にも明らかだった。
人々はこぞってラウラの病床を訪れ、そんなひとりひとりにラウラは言葉を遺した。
親友のメルセディタスに、妹のアマンディナに、多くの学友たちに…。
苦しみ続けるラウラは19日、以前にも増して痛みが激しくなり吐き続けた。
クリスタネッロ神父はそのラウラの傍らでラウラを励まし続けた。そしてラウラもその励ましに応えた。

しかし主は、ラウラに最後の試練を課した。
それは、ラウラを地上につなぐすべての綱を切り払い、主のみへと向かわせる、最後の試練だった。
主は、ラウラが学院にいる間愛し続けたシスター・アンジェラと、姉とも思い慕ってきたシスター・ローザを
ラウラから、おとりあげになった。
その19日、苦しみ続けたラウラを、ふたりは見舞いに訪れた。
目をそむけるシスター・ローザと、ラウラの手を握り、ためらうシスター・アンジェラ…。
やがて、シスター・アンジェラがこう切り出した。
「ラウラ、落ち着いて聞いて。私と、シスター・ローザは、あなたにお別れを言いに来たの。
明日の早朝、私たちはチリに向かって、出発するのよ。」
命を終わろうとしているラウラにとって、それは耐えがたい苦しみだった。
そしてラウラは気づいた。シスターたちというのは宣教師と一緒でなければアンデスを離れないはずだと…
と…いうことは…「まさか…、まさかクリスタネッロ神父様まで!?」神父はゆっくりうなずいた。
あぁ、もはやこの世でラウラが頼れるものは何もない!死を迎えようとしているラウラから、
主はすべての支えを取り去ろうとなさるのだ!
ゆっくりと、諦めを見せながらラウラは、「…神様のお望みのままに…でも私に祝福を与えてください。」
そのラウラにゆっくりとクリスタネッロ神父は祝福を与え、シスターたちはだきしめ、
悲しみに心を引き裂かれる思いでラウラの部屋を後にした。
シスター・ローザが、泣き崩れるのを見て、必死で自分を奮い立たせて、冷静であろうとしたシスター・アンジェラ
その彼女も、早朝自分の涙で枕がぐっしょりぬれていることに起きて気づいた…。

すべての準備は整った。主は、ラウラに主のみで足りる、というアビラの大聖テレジアの言葉を
思い起こさせるかのように、すべてを剥ぎ取られた…。

        


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