飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ

著者:井村 和清
出版:祥伝社
ISBN:0223-100168-3440


いつこの本を見つけたのか、記憶は定かではありません。
はっきりしているのは「家にあったから」読み始めたそれだけのことでした。
この本は「はじめに」で始まり、たった2章あとに「あとがき」があります。
なぜか。
それは、この著者、井村和清氏が、これを書いた当時、悪性の肉腫に冒され、死を目前にしていたからです。
「頭と尻尾があれば、胴体が多少短くても魚は魚だ」と井村さんは書いています。
だから「あとがき」を書いたのだ、と。

31歳という若さでこの世を去らねばならない。早すぎる。自分でもこの本の中で、そう悲鳴をあげています。
特に著者は、医師でした。自分の身体にされている検査を、すべて自分で判断できる医師でした。
医師が医師を検査することほど、嫌なことはきっとないでしょう。
患者にはすべて、分かってしまうのですから…。
井村さんは自分にされている治療で自分の状態を知ります。
肉腫が右足を冒し、切断することになっても、病魔は彼を休ませてはくれず、
肺へ転移していきます。
それに自分で気づいてしまうことの悲しさ。余命が分かってしまう辛さ。
時に叫び、時に泣き、時に憤りながらも
この本は驚くべき「静けさ」を湛えています。
自分のいのちをじっと見つめ、振り返りながら、苦しみと闘うその姿は、
さながらキリストの十字架を抱えて歩く苦しみを思わせるようです。
そして

どんなに苦しくても感謝を忘れない

著者本人が気付いていたのかどうかは分かりません。
けれどこの本は、自分に関わった人々への感謝が満ち満ちています。
原題が「ありがとう、みなさん」であったことからも
最後の最後まで「ありがとう」と言いつづけ、けして恨み言を言うのでなく
いのちの灯火を消していった一人の医師の心が伝わってきます。
いつ読んでも涙なしに読めない1冊です。

    


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