A Glance of the Moon



窓の向こうから白い光が降ってくることに気付いて上を見上げると、
鋭い光を放って半月をちょっと過ぎたくらいの月が私を見下ろしていた。

「月」は、いつも私を見つめている。見守っている。遠くから。
時にはとても大きく、近くから
時にはとても小さく、遠くから

月は私に大事なものを思い出させるかのように雲の間に隠れて、私の気を引く。
思わずまた出てくるのをじっと待って、私は窓の近くにたたずんでしまった。
雲の向こうに隠れても、その光は隠し切れずに夜の帳を白く浮かび上がらせる。
窓のこちら側の明かりが邪魔で、かち、と明かりを切って空を見上げると
ようやくゆっくりと姿を現して、私にその顔を見せてくれるのだ。

ジュリエットは言った。
「ああ、日ごとに姿を変えるそんな月に、あなたの愛を賭けたりなどなさらないで」と。
お前は不誠実なのだろうか。と私は月に問いかけた。
その光は、太陽の光を受けて変わって行く。そしてどこから私たちがお前を見るかで、
お前の姿は変わって見えるのだよね。と、私はなおも、月に問いかけた。
けれども、当然だけれども答えはなかった。
ただ私をじっと見下ろしているだけで、変わらずに白い光を私に向けて放っているだけで。
その月が不誠実ならば、見る角度を変える私たちも、不誠実なのではないだろうか。
私はそう自分に問いかけながら、まだ月を見上げていた。
そうしたら、ぼんやりと月が黄色く光った気がして、思わず目をこすった。

その姿を確かめるためには、窓の内側から見ていてはいけない。
ガラスに映るその姿は ガラスが汚れていたらきちんと見えないから

窓の上に手を伸ばして鍵をはずし 力を入れて持ち上げると
窓は抵抗するように音を立ててぎぃ…と軋んだ。
あたかも私の心が抵抗するかのように。
その耳障りな音に目をぎゅぅ…と閉じて私は思い切り窓を開けた

するり…と絹のような空気が部屋に入り込もうとして、ゼリーのような部屋の空気に押し返されている。
とっぷりと私の周りを押し包んでいる、てろんとしたゼリーが、その滑らかな流れに逆らっている
目を閉じて、もう一度心の中で呟く。月が、姿を変えているわけではないのだと。
つぃ、と顎を上げてまっすぐに月に対峙すると、目をその視線が射抜いた。
ぴし。と音がしそうなほどまっすぐにその月は、私を見ていた。
私が窓を開けるのを待っていたかのように、私をまっすぐにその光は貫いていった。
知らなかったわけではない。それを、知らなかったわけではない。
私は、知っていたはずだった。
ただ、窓の後ろで隠れて、それをきちんと見なかっただけなのだ。

月がいくら姿を変えても、月の姿がそこにあることを人は知っている。
そこに月がなかったとしても、月の姿が見えないだけだということを人は知っている。
そして雲の向こうに月が隠れたとしても、そこに月があって、
その周りの雲をきっと照らしていることも、みんな知っている。
ただ単純に、自分が角度を変えて見ているから「見えない」だけだと。
そしてそれを私も知っているはずだったのだ。
どんなに姿を変えても 月はそこにあって、輝いているのだということを。
どんなに私からその姿が見えなくても、月はきっとどこかで輝いているのだということを。
ただ、私が自分の不誠実から見る角度を変えて、「見えない」と言い張っているということを。
そしてそれは、月のせいではないのだということも。

すぅ……と唇をすぼめて、少しずつその夜気を含んだ冷たい空気を胸に吸い込む
目を上げて、ちらり、と一瞥を投げかけた
それでも月は「私」だけを見てくれているわけではないのだと
私はどこかで知っている。
みんなが月を見上げ、そして月はみんなを見つめているのだということを。

O Jee

そこまで考えて私は頭を振る

月がちらり、と気を引こうとして雲に隠れていく。
明日の姿はまたお前は違うのだろうね。
私はそう、隠れていこうとする月に問いかけた。
くすり、と月の代わりに笑いながら

でも、私はもうひとつ大事なことを知っている。
月は「自分では」輝けないのだということを。
そう。月は太陽の光で輝いているのだという、大事なことを。
太陽が輝くから、太陽が自分で輝くから、月は輝くことができる。
太陽がおのれの力でいつも輝いていないと
月は安心することがきっとできないに違いない。
きっと不誠実に姿を変えたりすることなど、できないに違いないのだ。
自由気ままに、あちらを向いたりこちらを向いたりなどできないに違いないのだ。
たとえそれが、「ヒト」の見方であったとしても。

ならば

私は太陽になりたい。
そう、私は月に呟いた。
お前が姿を変える、その変化の裏に「フヘン」を見つけるために目を凝らすよりも
おのれの光もて、お前に光をもたらす太陽になりたい。そう、呟いた。
お前の「フヘン」を「読む」のではなしに、私のフヘンがお前をより輝かせるように
その変化に戸惑うのではなく、角度を変えて探すのではなく、一生懸命見つめるのではなく
そう。「読む」のでなく「知る」ことができるように。
その光を「信じる」だけではなく「見届ける」ために。
そして、おのれの力で温かな光を放てるように。
温かな光をおのれに満たし、おのれの力もてすべてを輝かすために。
誰も気付かなくてもそこにある光をもたらす、
私は太陽になりたい。

私はそう、呟いて

まっすぐに雲の向こうに小さく 手を振った。


    


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