I believe.


秋だって言うのにハイビスカスを見たと、小さな嘘をついたの。
白い砂浜と、真っ青な空に挟まれてまるでトリコロールのように、赤く赤く、
ハイビスカスが咲いていたのよ、と言ったの。
ちょっとしたドラマが欲しかったから、ちょっと盛り上げてみたの。
だって、素敵じゃない。せっかく海に行って来たから。

でも空はもう、残暑を通り越して秋の顔をしていて、高いところで吸い込まれそうな青で。
雲はといえばもう、入道雲じゃなくってうろこ雲が平然と私を見下ろしていた。

それでも私はハイビスカスが欲しかったの。

だから、私は「ハイビスカスが咲いていたの」と、嘘をついたのよ。
真っ赤な、大きなハイビスカス。シフォンのベールみたいな花びらが、
まるでスカートを広げるみたいに広がっていて、
そこから足が出てるみたいに見えて、逆さまにしたらきっとオンナノコのドレスみたいよ、と。
夏みたいであって欲しかったから。

でもね。少しも疑わないの。「うん、うん」って私の言うことを聞いて頷いているの。
だって絶対変じゃない。変なのに、私の話。なのに「うん、うん」って言っているのよ。
私はムキになって、もっと本当らしくしようと思って細かいところまで話をしたの。
その砂浜で何を見た、とか、どんな人がいた、とか、何をした、とか。
でもそれって全部、ハイビスカスを本当にしたかったから話した「オハナシ」だったの。
なのにそれでも「へぇ。そうかあ。」って頷いているの。
少しだけ明かりがついていて、ちっとも疑っていない目をしているのが見えちゃうの。
だから私はもっとムキになって、聞かれてもいないのに、
誰に会ったとか、そこで何を食べたとか、もっともっと細かいことまで話したの。
顔を見ないように、埋めたままで。
でも、不自然かと思うからたまに顔を上げて、ちょっとだけ目を見てみたりもしたの。

たくさんたくさん話した後に、何だか疲れてしまって。
そのままシーツにくるまって顔を伏せていたの。
ドラマが欲しかったのになんだか楽しくなくてちょっと疲れてしまったの。

ちょっとだけ、黙って目を閉じて、ぼんやりしていたの。

そうしたら、思いもかけない言葉がぽろっと出てきちゃったの。

「ねぇ。ハイビスカスを見たなんて、嘘なの。全部。でもちょっとだけ、本当よ。」

自分が言っちゃったことにびっくりして、どうしようと思っていたら、
ちょっとだけ、笑い声がしてそっちを見たの。

「なんだ。信じちゃったよ。」

知っていたけど。知っていたけれど、あんまり自然なそのコトバにびっくりして
私が思わず身体を起こしていると、笑いながら、私を見るの。
だからなんだかおかしくなって、私まで笑っちゃったの。
だっておかしいじゃない。
一生懸命、ドラマを作って楽しくなろうとして 疲れてしまったって言うのに、
なんでもないたった一言の方が、よっぽどドラマなんだもん。
なんでもない普通の空気中で、なんでもない普通の気持ちの中に、
イイコトがあるんだもの。
ねぇ。そう思わない。思うでしょ。ねぇ。

あ。ちなみに。知ってた?
ハイビスカスの花言葉ってね「あなたを信じます」なんだって。
偶然にしちゃあ、できすぎよね。


    


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