Duomo
-Santa Maria Del Fiore-

「フィレンツェのドゥオモは恋人たちのドゥオモ」

その言葉を読んだとたんにちくり、と胸に刺さる棘の存在を思い出してしまった。

ドゥオモの中には、ダンテの神曲の絵があった。
普段教科書でしか見たことのない絵だった。
ドゥオモの地下で、英語のガイドブックを買って、
近くのファストフードでそれを読んだ。

目的地だけはあったけれども、
何処に行く、とか何をするとか何処に泊まるとか。
そんなこと何も決めていない旅だったから、ガイドブックも持っていなかった。
ただ、ドゥオモと、ウフィッツィ美術館には行こうと決めていた。

もしクーポラに上っていたら。

ファンタ・オレンジを、思わず買ったばかりのガイドブックにこぼしてしまったのは私だった。
笑って乾かそう、と言ってくれたのだけれどもぺりぺりページが言う音は
なんとなく悲しく聞こえてしまって、あまり好きではなかった。
ローマのようにバスにも乗らなかったから、ガイドはあまり必要じゃなかったので
ほとんど見ずに歩いた。
音がぺりぺり言うのがなんだかおかしかったから。

お昼を適当に済ませてから、ドゥオモの中を見た。
日本人の観光客団体が来ていたので、こっそりくっついて
ガイドさんの解説をこっそりふたりで聞いていたら、天井画はミケランジェロだ、
という話だった。
システィナ礼拝堂にしても、ここにしてもすごいなぁと見上げた。
ふたりして、首が痛くなるまでぐうん、と見上げていた。

あの日撮った写真の中の私は まぶしそうに目を細めて
じっとファインダーを見つめていた

空は真っ青で 天国への扉、は金ぴかに光っていた
なんだか地獄への扉、みたいなきがして怖かった。
もっと、狭き門。それが天国への扉な気がしていたから。

いっぱい歩き回った。たくさんたくさん歩き回った。
どこに行ったかなんて分からないくらいにたくさん歩き回ったけれど
私が見ないガイドブックの地図はきちんと道を教えてくれた。
ふと紡ぎだされる旋律に私がアレンジをつけてそれにまたアレンジがついて
色々な音楽が生まれだしていった。さすが芸術の都フィレンツェだとふたりで笑った。

その日の夕食に、買ったばかりのキャミソールとボレロを着て
ちょっと気取って出かけてみた。
初めて入ったリストランテでちょっと奮発して

部屋に戻ってから、駅に行く、といなくなり、ひとり残されて
とってもとっても長い時間が過ぎたようなそんな気がたくさんしていた
その窓からも、クーポラが見えていた
ひとりでぼんやりと眺めながら、ダンテの神曲を思い出していた
そして、今日受けたイタリア語のミサを思い出していた。

そして。あの広場で、スプレーで絵を描いていたあの彼が
明日どんな絵を描くのだろうとふと思った。
何時間も飽きずに見つめていた。
魅入られるように側で見つめて、私の手からカメラを受け取って
写真を撮ったり、じっと見つめたり。
日が翳ってもずっと見つめていた。
あの彼は明日、どんな絵を描くのだろう。

翌日、銀行でキャッシュカードが使えなくて困ったこと。
慌てて戻ってきたこと。思ったよりラファエロの修復がきれいじゃなかったこと
ボッティチェリの絵が美しかったこと。
駆け足で見たウフィッツィ美術館。ポンテベッキオとやっぱり、そばを通ると

ドゥオモは荘厳な美しさをたたえてこちらをみおろしていた。

まるで私は近づくすべを持たないかのように

ああ…そうだったのかもしれない
もとからそうだったのかも しれないな


     


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