Dolce Vita

Mauboussinのトワレを手にとって、カットソーの襟元から胸元にひとふきする。
その瞬間にふと立ち上る香り。
もうこの瓶で2本目になる。

「あなたに似合うよ。」

日本にはなかなか入ってこない香り。個性的で、自己主張が強くて、
そして艶やかに官能的で、どことなく「オンナ」で。
初めてこの香りに出会った日のことを、鮮やかによみがえらせる。
私がなぜ「自分の香り」を探し始めたのか、も。

女性物のトワレを堂々とつけるのが鮮やかで、潔く、そしてそれを「自分に合う」と言い切る
その爽やかさがとても印象的だった。甘い香りなのに白いシャツに何故か合い、
ただのTシャツがなぜかふと変化するのだった。

観光客と住んでいる人、はやっぱりどう頑張っても区別がつくので無理な買い物をさせられることがない。
じっくりといくつものテスターと向き合っていくうちに鼻がおかしくなりそうなそんな気がする。
そんなときに薦められたのがMauboussinだった。
その香りは、テスターで歪んだ嗅覚に強いインパクトを持って入ってきた。

「あなたに似合うよ。」

その言葉を耳元で聞くまでもなく、私は迷わず、そのトワレを選んだのだった。

              

そこまで思い出して、鏡をみつめて私ははっとした。
今吹いてきた風が私に運んできた香りは、Mauboussinの香りでは…なかった…。

なぜ、今、なのだろう。

ふと目を閉じると、たくさんの風景が浮かんでは消えていく。
否。消えていくのではなく、残像を残して私の中に刻まれているものを浮かび上がらせていくのだ。
忘れようとしていた、思い出の中の夢も。
思い出したくない、痛い、でも忘れてはいけない夢。
柔らかな温かい夢。

まぶたの裏に走馬灯のように、思い出しもしなかった細かいことまで、甦る。
ひとは声から思い出せなくなっていくというけれど。

ココロの内側に私は初めて耳を傾けていた。
たくさんの風景。それだけたくさんのものを見聞きしてきたのだと。
風に乗って運ばれてくる思い出の香り。
その風はあの時間のあの場所の香りを確かに私に運んできた。
止まっていた時間が、なだらかにゆるやかに動き出したせいなのだろうか。
色々な色が、そして色々な想いとFeelingが、今の私に流れ込んでくる。
いや、溢れだして来るのだ。
閉じていた扉が開かれて、そこから風が、縛り付けていた戒めを振りほどき、
外へ向かって。今の私に向かってあふれ出してくるのだ。

なぜ、「今」なのだろう。

私は今日、Mauboussinを手に取った。
なぜかつけなくなったトワレ。
Mouboussinは、ANNA SUIのSUI Loveに取って代わられていた。
なのに今日、私は手に、このトワレを取った。
スウィートピーの優しい門出から1年。
スウィートピーの切花をするように、根から切って、必要なくなったつもりだった。
でも。
それも私の一部だったのだと今更ながらに 気付かされた。

Dolce Vita

甘い甘い香りと共に思い出される風景。
それは、信じぬいたという私の、誇れる証。

…あぁ。だから今なのか。

Dolce Vita

甘い香りと共に記憶の残像が私に勇気を与えてくれる。
そして、ちょっぴり切なげな顔をしながらその残像が去っていく。
忘れることも、切り離すことも必要のない私が。

私に勇気を与え私の信じる力を思い出させてくれたのは
他ならぬあの香りの記憶。
腕を広げて受け止めることのできた痛み。

Dolce Vita

たくさんの風景たくさんの時間たくさんの…。
ありがとう。今、私はその残像とひとつになる。
そして、勇気を持って、始められる。
今日から始まる私の第2章を。

そう。

第2章が、今日始まったのだ。


    


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