紙の袋に包まれて出てきたチケットの束
日にちと出発駅と目的地が書かれた小さなチケット
さようなら
を言えなかった私に遺されたたくさんの旅立ちの記憶
あの日々はいまや幻のように霞みがかっている
ティシューで作られた花のようなスウィートピーが束になって煙っているように
私の心の中の記憶も遠くに押しやられてうっすらと霞んで見える
旅の目的地は今はもうたどり着くには遠く
その後姿さえ視界には入ってこない
小さなチケットの束が私に唯一遺された記憶の手がかり
一枚一枚めくりながら初めて気づくことのなんと多いことだろう
一枚一枚旅を終えて役目を終えたそのチケットをなぞりながら
やわらかく煙るスウィートピーの束に顔を埋めるように
終わった旅を想う
歩き疲れ座り込み泣きじゃくりひとりでそこに残った旅
繋いだ手を離して離されて
ひとりでそこにうずくまった私に遺された旅の記録
そのチケットを抱きしめて愛おしんでいた日々
大事にしまわれていた役目を終えたチケットたち
スウィートピーのつるが伸びるように
私の旅も続いていくのだろうか
役目を終えたチケットはもう必要ない
記憶のお守りは
もういらない
スウィートピー
花言葉は
「別れ」「門出」
「優しい記憶」