小さな緑の音が さらり
風が運ぶ 匂いに乗って
どこか遠くの 物語のように
目を細めると 遠くにかすむ旋律の欠片がゆらり
まぶしさに思わず 目を閉じて俯いて
大きく息を吐き出して ゆっくりとその音を吸い込むと
些細な夢の旋律が 記憶の向こうからふわり
ゆらめく陽炎のように 不確かな1小節
確かめるようになぞるように何度も何度も繰り返す
木漏れ日のように ちらちらと見え隠れするようにきらり
途切れ途切れの音を確かめながら ワンフレーズ
密やかに囁きながら 口ずさみながら
水面のさざなみが 光る粒のようにちらり
寄せては返す波のように また別のワンフレーズ
高く高く 低く低く 囁きにまたゆったりと深みを増して
足元に茂る緑の葉が 夢のようにしゃらり
繰り返す旋律の波に トリルを加えて遊ぶ
途切れ途切れの旋律を 繋ぎ合わせる糸のように細く高く
耳を澄まして 私の周りの旋律にくらり
繋がった記憶の旋律の奏で出す音色に言葉を奪われて
今 私の心に色鮮やかに響き始めるハーモニーに立ち尽くす
吸い込まれそうな 記憶の向こうの景色が目の前でざわり
引き寄せるように 確かさを増してすべてがフォルテシモ
この目の前の花の色でさえも 目の前の空の蒼さすらもかき消すほどに
クライマックスに抗いがたく ひきずられるようにふらり
今は亡き蜃気楼の世界が 現実(いま)を乗っ取ろうとでも言うかのように
ゆらめいてきらめいて あの日のアレンジを再び思い起こさせる
駅に着く電車の衝動で ことり
身の回りを見渡して 同じ場所の知らない場所に今立っている
記憶の奥の瞳の向こうを振り返り 目を閉じて歩き出す
あの旋律も また些細な夢を紡いできたのだと ぽつり
振り返りそのきらめきに その揺らめきにそっと惹かれながら
今はもう 違う旋律を紡いでいるのだとただ気付くだけ
「失った」ハーモニーの中に確かに見つける 今
ただ気付くだけ 私という主旋律に