第3章 From the Jericle to usーJennieany Dotts


猫たちが色めき立つ。いっせいに鳴き声をあげて、歓声をあげている。
正直に言えばここから見ると、どうもドライにならざるを得ないのだが…まぁいつものことだ。
シラバブが大喜びではしゃぎまわって、成猫について同じように声を上げようと必死になっている。

全員がわいわい言い出す。
ジェリクル・キャッツについて話すやつ、猫がいかに偉大かについて話すやつ。
その声がひとつに集まって行くその瞬間は背筋がぞくぞくするほど興奮する。
猫が偉大なことくらい、言われなくてもとうに承知だが、
それをこうして一族郎党で祝う、ってのが俺にとっては大事なことだ。
…ジェリクル・キャッツなんぞどうでもいい。
そう呟いて、俺も踊りの輪の中に飛び込む。最高の瞬間だ。

あっちではミストフェリーズが、久々に楽しげに声を上げている。
やつがあんな風に歌うのは年に1度、ジェリクル・ボールの日だけだ。
…多少俺としては複雑な気分だ。まぁ、今日もまた、やつのお手並み拝見、ってところだ。
ガスのじいさんがジェリーロラムに世話になって歌ってやがる。
明日は起きれねえなぁ、じいさんも。あんないわゆる年寄りの冷や水ってのか。
エトセトラも年々慣れてきてるんだろう。アドメトスにちょっかいを出していやがる。
毎年恒例の行事とは言え、毎年恒例の歌で、踊りで眺めだとは言え1年ぶりの顔もある。
こうして中で一緒にやっているだけで、久々で血が沸き立つような思いがする。
同時に、だからジェリクル・ボールはいけねぇんだよ。
ボンバルがちらり、と俺の尻尾に一瞬尻尾を絡める。
見ると、にっこりと極上の笑顔を作って耳元で

−こうやってみんなの中で踊ってるあんたを見ることになるなんてね

とだけ言って、また踊りの中にまぎれていく。
…俺だって、想像すらしなかったさ。数年前は、な。

マンカストラップの長身が、ディミータをホールドしているのが見える。
やつも、心から楽しそうに見える。こっちと目が合いすらしねぇ。
お役目ほっぽっていいのかねぇ、と心の中で毒を吐いてみるが、
この1年の奴さんのことを考えると、何も言えやしない。
いいやつ、で終わっていたやつがようやっと、だからなぁ。ウブだからな。
…奴さんは、ディミータが選ばれたら、喜ぶんだろうか。
シラバブや、エトセトラが選ばれたら、ディミータやボンバルは喜ぶんだろうか。
俺には、分からん。

ゆっくりと、毎年のように輪が出来上がっていく。
そしてゆっくりと、各猫たちの語りが始まるのだ。
誰からともなく、自分たちの生きてきた道を語り始める。
…初めて聞く話も、いつも聞かされている話しも、こうして全員揃ったこの夜に聞くと
どこか…違った話に聞こえるのは、なぜだろうか。

そこに、マンカスがいつものように口火を切る。

―さて、今年は誰が選ばれると思うかい。
   俺は、ジェニエニドッツが思い浮かぶんだが、どうだろう。

  階段にいっつも座ってばっかりで動きもせずにじっとしてる。
   一日中階段の上にいたかと思ったらソファの上。どこにいたって彼女は座ってる。

―かと思ったら、夜中にいきなり張り切って、ネズミたちにお掃除をさせて
   こんなんじゃだめっってお説教するのよ

何人かの雌猫たちが調子を合わせて歌いだす。

ジェニエニドッツが立ち上がったのが見えた。
今日は彼女かららしい。参ったぜ、掃除の格好をさせられるのは。
全員が集まるから、という理由だけで逆立ててきた虎毛をぶるっと震わせる。

俺は、そそくさと自分の場所へ引き上げる。見ると、マンカスがちらりと俺に目をやる。
…ようやくお役目ですが、ご苦労なこって、とにやりとしてやった。
素直なもんで、奴さんも苦笑を返してくる。その直後に、ひょい、とあごをしゃくった。
見ると、気づかないうちにもう1つ、見張り台を用意してくれていたらしい。
やつの口が動く

−無理をするなよ。時々は降りて来い。俺も時々あっちで見ているから。

口だけでそう言うと、彼はまた輪に戻っていく。
俺のためじゃなくて、自分のために作ったらしい。
ここでのんべんだらりとしているのは俺の特権なんだが。
…奴さんには、輪の中にいてこそできることがあるってもんだ。

ジェニエニのやつは、いかに昼と夜で自分の働きが違うのか、をとうとうと語っている。
雌猫たちが、ここぞとばかりに声を張り上げて歌っているのが良く見える。
掃除は大事なのよ!とでも叫びたいのだろう…知ったことか。
ジェニエニは掃除の神様だとでもいうかのように、ちびどもに雑巾を持たせて、
おとこ共にほうきを持たせて走り回らせる。
…やれやれ。逃げて正解だぜ。

夜はねずみに働かせる、といういつもの話を今日も立て板に水。
留まることなく続けるジェニエニ。そういえば、こいつと会うのも1年ぶりか。
あ、いや、この前階段口で、でんと座ってるのを見かけた。
声をかけたんだが、あれはきっと…寝ていたのか。
なまじっかあの話はウソじゃないんだろう。
そういえばエトセトラが、ねずみを怒るついでに自分まで怒られたと、
報告してくれたことがあった気がする…何をやらかしたんだか。

そうやって話を聞いていると彼女に関することが次々思い出されてくるから面白い。
会ってなんぞいないのにだ。
やっぱりそれは、自分がこの界隈を自分が気にかけるものとしているからなのか。
普段思い出さないことでも、見ていないようで見ているものかもしれない。

しかし…ほうきを持たされたアドメトスは…情けねぇなぁ…本当にあれでセカンドが務まるのか。
じぃさんが指名したわけが、俺にはとんとわからん。…ま、俺の知ったこっちゃないが。
あれで何か、持っているのかもしれないしな。
…とは俺にはやっぱり思えないのだが。

…いや、しかし女というのは怖いものだと、ここから見下ろすと余計にそう思う。
ボンバルはともかく、あのおとなしいディミータやカッサンドラまでが、
つい、とあごをあげてジェニエニと一緒に男を掃除に駆り立てている。
…で、結局、あの掃除をしているほうがコリコパット…か?
いや…あの双子は結局2匹とも掃除をしていやがる。どっちがどっちだかわからねぇ。
早く成長してもらわんことには、見分けがつかないってもんだ。

と、思いながら見下ろしていると、飽き飽きしてきたらしいエトセトラが、

−にぃちゃん!

と叫ぶやいなや、ひょいっと身をくねらせてジェニエニから逃げてきた。

−お掃除なんて嫌いだよぉ、飽きちゃった。ジェニエニのおばさんだけじゃなくて、
   おねーちゃんたちまで一緒になってるんだもの。

ぶすっとした顔で俺の上に乗っかってくる。さすがに2歳半にもなると…多少重たい。
そのエトセトラを見て、シラバブがこっちを気にし始める。
そろそろ仔猫たちは飽き始めてきているような気配がする。

−にぃちゃん、にぃちゃんが今度はお話して、ねぇにいちゃん!

エトセトラが、ぼんぼん、と俺の上で跳ね始める…さすがに…これは痛い。

−おい、やめろっ。

−おはなし、おはなしっ!

…やめる気配はない。それどころか、シラバブが下からエトセトラにあわせて叫び始めた。
ジェニエニは…さて。気にする気配はない。それどころか、シラバブをひょい、と咥えて、
…やれやれ、もとのところに連れ戻した。
あれが階段に座っていたのと同じやつだとはとてもじゃないが思えない。

…さて。頼まれたことだし。そろそろ俺が降りて行ってもいい頃か。
いい加減掃除の大切さにも、飽きてきた。


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