リリアンは遂に劇場に現れなかった。アンドリューはそれを後で知った。
そして、会社にアンドリューのマネージャーを降りることと、辞表が出されていたことを、
劇が終わってから教えられた。
身体の具合が思わしくないこと、医者からの診断書つきだった。
それは、あまりに唐突だったが確かにこれ以上隠し通せるほど生易しい病状ではなかった。
確かにアンドリューにも思い当たる節はいくつもあった。
なんども電話をしてみた。なんども訪ねてみた。
けれど、彼女はどこにもいなかった。
いくつかの行きつけのカフェにも。行きつけの美容院にもブティックにも
彼女はあの日以来現れていない。そう聞いた。
こんな状態で僕を放り出すなんて。アンドリューはなんどもそう思った。
あの日、ひどいできばえで、ひどい状態で帰宅したアンドリューを、
バリモアは優しく迎えてくれた。
一緒に嘆いてくれ、怒ってくれ、悲しんでくれた。
あの日、リリアンはバリモアに会ったのだろうか。
何度か聞こうと思ったが、なぜかためらわれて仕方なかった。
なぜか、聞いてはいけないことのような気がした。
あの日以来、バリモアも少し様子が変わった。
どこか柔らかな様子になった。
そして、アンドリューがテレビの仕事ではなく、もう一度演劇をやり直す。
そう宣言したその日。その夜、バリモアは、いなくなった。
―また、あの人を長く待たせてしまうといけないから、私はもういくよ。
君は、私たちの誇りだ。自分を誇るといい。
そう、言い残して、ちらり、と美しいアイリスのピンを煌かせて。